三原山登ってきた (前)

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                      キャンプ場から見える三原山
大島へ一人旅をしに行っていた。島の南端の、三原山がよく見える位置にあるキャンプ場にテントを張って三日間を過ごした。

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夜は涼しくてよく眠れるけど、日が昇ると途端にテントの中は蒸し暑くなってくる。
そうして無理やり早起きをさせられた三日間の二日目に僕は三原山に登った。


起きるとまずコッヘルとストーブを使って湯を沸かして、簡単な朝食を作って食べた。
登山に必要なものとカメラだけをザックに詰めて、余計なものは張りっぱなしのテントの中に放りこんで出発した。

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キャンプ場からスタート地点の三原山温泉ホテルにはバスで登った。裏砂漠を通り、
火口周辺を一周(お鉢周り)しての三原山頂口まで下山する計画だった。
 
温泉ホテルでは他の観光客がちらほら見えた。元町からの送迎バスで到着した人たちや、自家用車に乗ってきた家族連れがいる。しかし、どの人も軽装で、僕のように登山靴を履いて大きなザックを背負った人は他に見なかった。ほとんどの人は良い景色を見ながら温泉に浸りに来ているだけのようだった。
......登った方が良い景色が見られるのになあ、と思いつつ、駐車場脇にある登山口へ降りて行った。

 

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 裏砂漠に通じるルートを歩いていった。周りには細くて背の高い木が茂り、蝉の大合唱が響き渡っていた。そしてやはり、このとき登っていたのは僕だけだったと思う。周りに人がいる気がしなかった。

 

f:id:OyamaShiki:20180809001055j:plain十分も歩いていると植生も微妙に変わり、次第に頭上の視界が開けてくる。
日光が遮られていたとはいえ、動いているとどんどん汗をかいてしまう。

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落ち葉もだいぶなくなり、山の地質が露わになってくる。地面はおそらく火山灰とスコリアが積み重なってできているため、黒い。
奥に見えるのは三原山ではなく櫛形山という別の山。

登山口からここまで、数十歩歩くたびにセミがぼこぼこと体当たりしてくる。
力強い羽音がいきなり聞こえてきたと思うといきなりぶつかってきて、『ミ゛ッ』とか鳴いてまだどこかへ飛んでいく。

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さらに十分も歩くと、低木もまばらにしか生えない『裏砂漠』にいよいよ進入することになる。

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スコリアは元々はマグマだった。それが噴出するときに中の成分が揮発・発泡して表面に無数の細かい穴が空いた結果、多孔質の黒い岩石となった。

そういうものが堆積してできた火山岩石が、登山道の横にごろごろと転がっていた。

ただ厄介なことに、この火山岩石は脆い上に鋭い。足場の確認のために岩石を蹴ってみると、ぼろぼろと塊で崩れていく。たまたま足を乗せた場所が崩れて転倒でもすれば、身体中に無数の切り傷がつくことだろう。

 

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振り返ると、ここまで歩いて来た道が見える。右のほうからゆっくりともやがカーテンのようにかかってくる。周りに遮蔽物がほとんどないため、風が吹くと肌寒くなる。

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前に向きなおると、目の前にももやが立ち込めていた。さっきまで見えていた山々が視界から消えていた。
それでも、黒い登山道がずっと続いているので迷うようなことはなかった。

黒い岩石が現れては、ゆらめくもやにのまれて消えていった。